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100年にわたり愛されてきた河内鴨

ツムラ本店の現在の代表、津村佳彦さんは100年続くツムラを受け継ぐ5代目になる。

もともとは近江から居を移した太閤秀吉の推奨で、大阪・松原の多くの畜産家によって生産が盛んになったが、いまではここ一軒だけ。河内鴨を育てている様子を伺うと、100年間にわたって受け継がれ、さらにますます愛されている理由を知ることができる。

目次

鴨の飼育は子育てと同じ

ここでの鴨の飼育は子育てと全く同じである。広いところでのびのび育てたい、そして元気に動き回ったり、盛んに餌をついばむ姿を見たいという気持ちが根底にある。
見学に行くと、独自に配合した有機飼料を手渡されることがある。鴨に良いものは人にも良い。
口に含むと自然な甘みと穀物の香ばしさ。有機飼料だけでなく新潟の有機玄米も与えているが、おいしくて鴨の食が止まらない。

さらに清々しい香りを放つヒノキのチップを、体内を清浄に保つために与える。
鴨も人間のようにしーんとしたところでは過ごしづらいようで、ラジオの音が流れている。
時期によってポップスだったり軽快なトーク番組だったり。鴨の動きや餌の食べ方が変わるようだ。

肥育日数にあわせての鶏舎の引っ越しは、独自に工夫した滑り台で、さながら運動会。
これは怪我をさせず、短時間にストレスなく鴨が移動させるためのアイディアだ。
これらさまざまな配慮はすべて子を育てる親ごころそのものだ。

受け継がれてきたのは、飼育法ではなく向上心

様々な工夫は、初代から受け継がれてきたものに加え、代を経るごとにそれぞれの当主が試行錯誤を重ね、その蓄積が今日の飼育法になっている。天井には鶏舎全体に心地よく空気を流れさせるという、ところどころに穴の開いた太いチューブを見たが、これも当代になって考えられた独特の設備だ。鴨が過ごすメッシュ貼りになった高床の鶏舎も同様で、これによって湿度から鴨を守り、清潔を保っている。
100年続く老舗と聞くと、同じ方法を守り通す頑固さを想像するが、ここではまったく当てはまらない。先代よりも今、昨日よりも今日とより良いものへと常に知恵を絞っている。実際、年を経て鴨の生育や鴨肉の品質は向上を続けており、今後も止まることはない。
変わらないものは、経済合理性を二の次に、健康で美味しい鴨肉を生産すること。成長ホルモンや抗生剤を使った不自然な生育は行わない。そしてそれができない生育数を求めない。
朝は全員4時出勤。鴨を育て、食肉として出荷するまで機械が役立つところはほとんどない。全員で手作業。一本一本毛抜きで羽根を抜く気の遠くなる作業を経て枝肉に。そしてその日のうちにツムラ本店が認めた各飲食店に届けられる。
鴨肉は通常50日で出荷される事が多い中、ここではロースの味わいが最高になる75日まで肥育を続ける。美味しさと健康のため1.5倍の日数をかけ、そのあいだ常に心を込めて餌をやり、手塩にかける。100年前もこれからも変わらない。